| 近年アルドステロン(Ald)の作用に関する研究が進み、その知見は飛躍的に増大しつつある。古典的なAldの主な作用は体液量の調節とK調節である。ヒトを含めた陸上動物は長く塩分欠乏環境で生活し進化してきたため、塩分及び水分を効率よくリサイクルするメカニズムが発達している。
レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系はその中心をなすもので、特にAldは生命の維持にとって極めて重要な役割を担っている。しかし有史以来のヒトの食生活の変化に進化が対応し切れていないため、今日では様々な有害作用を及ぼす原因となってしまっている。Aldが担う塩分再吸収量調節は、糸球体濾液中の数%に過ぎないが、体内環境に応じて最終的な排泄量を調節するという重要な役割を担っている。従来のAldの作用部位は集合尿細管及び接合尿細管と考えられていたが、近年遠位尿細管にもその作用が及んでいることが明らかにされている。
AldはアンギオテンシンII(AII)の刺激により副腎皮質で合成・分泌され、循環血中に放出される。一方近年の研究により脳組織や心筋細胞、血管などでもAldが合成され、また鉱質コルチコイド受容体(mineralocorticoid
receptor:MR)も存在していることから、局所でのAldには様々な生理的・病理的意義があるものと推測されている。またこれら非上皮細胞ではコルチゾールをコーチゾンに代謝することでMRへの結合を阻止している11βHSD(hydroxysteroid
dehydrogenase)を欠くため、AldのみならずコルチゾールもMRに結合し、様々な作用を発揮していると思われる。AldはMRと結合して核内に入り、DNA転写調節を行う転写因子の補助因子として上皮性Naチャネル(ENaC)の遺伝子発現などを調節している(ゲノム作用)が、近年ペプチドホルモンのように細胞膜上の受容体に結合して作用を発揮する機序(非ゲノム作用)が明らかにされ、注目されている。現在Na-H交換輸送体活性調節などが明らかにされているが、今後の研究の進展が期待される。こうした機序を通じ、Aldには従来より知られていた古典的作用以外に、種々の臓器で様々な病的意義を有することが明らかにされつつある。心筋の線維化やリモデリングの促進、血管壁障害、血管内皮細胞障害、カテコールアミン活性化、不整脈の誘発、進行性腎障害など、多岐にわたる作用や病的意義が報告されている。例えば心臓では、従来より左室肥大の程度とAld濃度には相関が見られることや、逆にspironolactoneによってAldを抑制すると左室肥大が抑制されることが知られていたが、2003年に報告されたEPHESUS研究により、MR拮抗薬であるEplerenon投与の慢性心不全の進展抑制効果が明らかにされた。MR拮抗薬である
Eplerenonを用いると慢性心不全の進展が抑制されることが2003年に報告されたが、近年Aldが直接心筋細胞に作用して細胞の肥大や線維化を促進すること、またEplerenonによるMR阻害によってそれらの作用が抑制されることが明らかにされている。また腎においても、Ald阻害による蛋白尿減少効果が報告されていたが、最近EplerenonによるMR阻害が直接糸球体上皮細胞やメサンギウム細胞に効果を発揮し、蛋白尿に対するバリヤー(スリット膜)を形成しているネフリンの発現を低下させたり、細胞増殖や線維化を抑制する事実が報告されている。こうした「臓器保護効果」に加え、Aldには中枢性の昇圧作用や血管収縮作用があることが明らかにされており、臓器に対する直接作用と同様、これらの作用も局所のMRを介して発揮されると思われることから、MR抑制が降圧に有効に作用すると考えられる。
以上、古典的な作用に加え、最近明らかにされつつあるAldの臓器障害作用と、MR阻害による臓器保護効果や降圧効果につき概説した。 |