幸せに、元気になる体質別薬膳
 

 私は25年ほど前、中国四川省の成都同仁堂薬局へ薬膳の見学に行ったことがあります。当時日本人としては二人目、といわれました。この薬局は千年の歴史があり、中国では薬局の社会的地位は高く、以前の中国首相の夫人はこの薬局の出身で、歴代の首相夫人も薬局出身が多い、とのことでした。周囲の壁には漢方薬が陳列してありますが、真ん中のフロアーはなんと丸いテーブルが何卓もある、レストラン風でした。中医師(漢方専門医)が相談を受け、処方嚢に薬の名前と体質症状にあった食材、料理を書き、お客様はその料理を食べて帰っていました。後年私が受けた国際中医師の試験の答案も、薬の処方に食事を書かないと100点になりませんでした。
カルチャーショックを受けまして、それ以来私は薬膳にのめりこみ、日本人があきずにおいしく食べられるものを考え続けてきました。

 「食は」命なりあなたが食べたものが、あなたの身を作ります。
 5年ほど前に有楽町国際フォーラムで「漢方と食べ物」の講演会で司会を頼まれたことがありました。アグネスチャンさんが食べ物の話をしました。彼女は漢方の家系で、いつもお母さんから 「あなたは虚弱体質、乾燥、冷え性だからこういうものをお食べなさい。お兄さんはアグネスと体質が違うのだから、お兄さんはこれを食べなさい」といわれて育ったそうです。ユネスコ大使として活躍するそのパワーの源は体質にあった食事だとその話を聞いて思いました。
 中国医学では急性病は薬だけでも治る。慢性病は薬だけでは半分しか治らない、と説きます。
古典の中で抱朴子は“欲得長生腸中常清''(長生きをしたいと欲せば腸の中を常に清らかにせよ)と書いています。
史上初めて「薬膳」という言葉が出ているのは約1800年前の<後漢書烈女樽>で“母親調薬膳恩情篤密''(母親は心をこめて薬膳を調える)という文章に載っています。私たち北京中医薬大学日本校卒業生が日本で初めて立ち上げた薬膳の学会「日本中医食養学会」では薬膳を下記のように定義しました。すなわち「薬膳とは中国医学の考えに基づいて、病気の予防、治療、健康回復を目的とした食事のこと。」

 治療薬膳とは・・病気を早く治す手助けをする
 保健薬膳とは・・病気の予防、健康回復に身体にあったものを毎日とる

 現代栄養学の特徴は成分を強調しますが、個人の体質の違いは重要視していないことです。たとえば胃腸の弱い人がチーズを過食、肥満のひとがココア、ワインを過食、アレルギーのある人が牛乳を過食、はては納豆だけでダイエット???
その結果体質に合わず健康を損ねています。

食事と病気の関係は<養生論>では「飲食不節 以生百病」と説いています。それではどうしたらよいか?そのためには「自分の体質を知ること」が大事です。
 中医学では体質を大きく二つに分けます。
 1) 虚証とは「足りないタイプ」で元気がたりない(気虚)、血が足りない(血虚)、潤いが足りない(陰虚)の三つ
 2) 実(邪)証とは「悪いものが詰まっているタイプ」で気詰まり(気滞)、血がどろどろ(お血)、痰湿(水がねばねば)の三つ
 「邪」とは悪いもの、汚いもので日本漢方では実証とは「体ががっちりした人」と説明することがありますが、「悪いものが詰まっている」と解釈すると分かりやすいでしょう。
 さらに東洋医学では、人の体の大きな成分を「「気、血、水」の3つと捉え、「気」は生命のエネルギー、「血」は血液とその機能、「水」は血液以外の水分とその機能です。人の体には目に見えるものとして「赤い血液」と「水分」が流れています。水分とは涙、唾液、鼻水、尿などですが目に見えないものとして「気」が流れています。元気の「気」、気分の「気」です。エネルギーです。その「気」によって「血」や「水」が動くと東洋医学では考えています。舌は体質を如実に表しますので非常に参考になります。毎日店頭でお客様の舌を見せていただくうち、自然に体質が分かってきます。毎朝、自分や家族の舌も見ましょう。健康の「ベロメーター」です。健康な舌はきれいな淡紅色でしっかりして適度なうるおいと透き通った薄い苔があります。〈図A〉


 虚証のうち
 1)元気が足りない気虚には●主な症状は、疲れやすい、息切れ、風邪を引きやすい、冷え性が見られ、●なりやすい病気として食欲不振 胃がもたれやすい、下痢をしやすい、尿が近い、不妊症、夜中の排尿、脳梗塞、ボケなどが今現在なくても将来起きる可能性がある体質です。
  舌は〈図B〉で縁に歯形が見られ、内臓の筋肉にしまりがない状態を表します。
 2)血が不足しているタイプ(血虚)は●主な症状としてめまい、立ちくらみをしやすい、顔色が白く艶がない、肌がかさかさする●なりやすい病気は、抜け毛 不妊、生理不順、婦人科疾患 不眠、目の疲れ、息切れ、動悸 不整脈、手足のしびれ。舌の色は薄く赤みが少なく、血色が悪いことを表します。〈図C〉
 3)潤い不足タイプ(陰虚)は●主な症状は、ほてり、耳鳴り、から咳、ほおが赤い、のどが渇く、よくお茶を飲む。●なりやすい病気は、便がころころして硬い便秘、高血圧、目が乾く。
  シェーグレン症候群、肌が乾燥してかゆい、アトピー性皮膚炎、萎縮性胃炎などです。このタイプは内臓の老化に関係があり、早くから予防することにより病気の発症を防ぐことが出来ます。舌は乾燥して苔が少なく細かい割れ目も見えます。細胞の潤い不足を表わします。〈図D〉


実(邪)証には
1)気詰まりタイプ(気滞)●「気」のめぐりが悪い状態でストレスや精神的な過労が続き、常に緊張している。●主な症状は いらいら、怒りっぽい、憂鬱、落ち込みやすい、不安。●なりやすい病気は高血圧 偏頭痛、自律神経失調、肩がこりや すい。夢が多い、胃やお腹、わき腹が張る。ガスやげっぷが多い。全ての病気は気滞からはじまります。舌の先が赤く  緊張状態を表します。〈図E〉
2)血がどろどろタイプ(お血)は●「血」のめぐりが悪い状態で●主な症状は顔、唇、歯茎の色がわるい。しみ。そばかす、  ほくろが多い。肩こり、関節の痛み、頭痛、手足の冷え●なりやすい病気は、生理痛が重い、子宮内膜症、子宮筋腫。 メタボリック症候群、高血圧、糖尿病、心筋梗塞、ぼけやすい、がん舌の色は暗く紫色で黒いしみのような斑点が見え、 舌の裏側の静脈は太くてうねうねしたこぶが見えます。汚い紫色の血液が透き通って見えている状態を表します。
  <図F>

3)水がねばねばタイプ(痰湿)は●余分な水分や脂肪がたまっている状態で●出やすい症状は、痰が多い、肥満コレステ ロールや中性脂肪が高い。にきび、痰、おりものが増える。口臭、水太り、だるい、めまい、むくみ●なりやすい病気は、 メタボリック症候群、高脂血症、糖尿病、脳梗塞、動脈硬化、狭心症舌は厚いべとべとした苔があるのが特徴です。厚  い苔は水分代謝が悪いことをあらわします。
 苔は取ってはいけません。味蕾を傷つけます。食べ過ぎ、飲みすぎ、美食をやめて苔が出来ない食生活をして改善しま しょう。<図G>

 
舌は健康のベロメーター
 
  ではどのような食事が体質を改善し、なりやすい病気の予防になるのでしょうか?
食事はすぐ効果が出るものではありませんが、長く毎日食べることにより体質を改善することが出来ます。基本的には和食の粗食、三食ご飯が理想的です。
虚証によい食事と薬膳
良いもの:消化力をアップする穀物・イモ類・山芋・サトイモ・きのこ類・納豆・豆腐色のついたもの・人参・ほうれん草・黒豆。汁物・煮物・鍋料理
(体を丈夫にしようとして無理に沢山食べようとしないこと。消化ができなく、逆に胃に負担がかかる。)
悪いもの:冷たいもの・脂っこいもの・辛いもの・食事代わりの菓子パン
●薬膳●けんちん汁。山芋の梅和え、きのこ汁、白きくらげとトマトの緑酢あえ(写真参考)

実(邪)証によい食べ物と薬膳
 好きなたべものをやめ、きらいな食べ物を取ると体質はよくなり、病気が予防できます。
◎気詰まりタイプ(気滞)に良い食べ物と薬膳
 香りのよいもの…セロリ、せり、三つ葉、菊の花、春菊
 酸っぱいも…黒酢、梅干、レモン、みかん、オレンジなど
 ●薬膳セロリのお寿司春菊と菊のおひたし金柑のババロア
◎どろどろタイプ(?血)によい食べ物と薬膳
 美食、過食を避ける。辛いもの、温まるものを中心ににんにく、たまねぎ、らっきょう、しょうが、山淑など体を温めるもの、 さば・いわしなどの青魚、とまと、ピーマンなど
 避けたいもの;冷たい飲み物、味の濃いもの、肉の脂身、バター、チョコ
 ●薬膳さばのトマトソースかけ<材料>さば、トマト、ピーマン、たまねぎ
◎ねばねばタイプ(痰湿)によい食べ物と薬膳
 たまった水分を尿や便で出すもの・・根菜類、こんにゃく、きゅうり、くらげ、雑穀、玄米、緑豆、あずき、どくだみ茶、はと  麦茶、いわし、さんまなど
 ●薬膳きゅうりとくらげの酢の物、あずきがゆ(写真参考)、緑豆ぜんざい

ご自分の体質に合った良い食事を取っているかどうかは毎日の「便」でわかります。
<<「便」は、体の中からのお「便」り>>
 毎日バナナ3本分の山吹色の便が出ていますか?
あなたの食事があなたの体質に合っていれば、いいお「便」りが届くはずです。
× 便秘硬い便コロコロ便臭い便ベトベト便下痢

  さあ、今日からあなたの体質にあったものを、おいしく適量を食べて幸せで健康な生活をお送りください!!!


植松光子

中国政府認定国際中医師.
東京理科大学薬学部卒業
北京中医薬大学日本校卒業 同校講師

 
 
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